福田歯科医院(北海道函館市)

COVID−19流行による診療環境の変化に対応したクラウドシステムの活用

クラウドシステムが可能にする、after(with)コロナの歯科医療価値醸成

昨今、世界的なコロナウイルスのパンデミックにより、人々の生活や健康に対する考え方が、今まで経験したことのないようなスピードで変化している。この急激な変化は、一時的なものではなく、今後の社会を根本から変えてしまう可能性すら孕んでいる。

私たちの歯科医療業界も例外ではなく、その潮流は急激に押し寄せ、今後の歯科医療を変えることと思われる。これまで、幾度となく我々の歯科医療業界にはイノベーションやパラダイムシフトと言われるような転換点が訪れた。しかし、今回のCOVID-19による変化は、社会全体を巻き込んで起こっている事と、全ての個々の患者さんの認識をほぼ例外なく変えてしまったことの2点で、今までの変換点とは全く異なっている。この変化は、インプラントやデジタルデンティストリーなどという技術的な転換点とは比べものにならないほどの変革が起きることを意味していると考えている。

さて、そのような中で、クラウドを生かした歯科医療にはどのような可能性があるのか?私は、今後、予防歯科医療がクラウドシステムをプラットフォームとすることで、今までとは比較にならない価値の醸成を可能にすると信じている。以下に私が考え実践していることを3つの軸から説明したい。

1.予防歯科×クラウドシステムで可能になる人生100年時代の歯科医療

医療の進歩により先進諸国の平均寿命が伸び、人生100年時代と言われるようになった。中でも日本は世界一の長寿国で超高齢化社会である。そのような社会では、人々は長い人生の中で蓄積した慢性炎症と生活習慣によるリスクの蓄積とも言える疾病を、生涯の後半で抱えつつ生きていくことになり、最終的には、その疾病に起因するより重大な疾患で生涯を閉じることとなる。そうなってくると医療にとっては『生きるか死ぬか』ということより『如何によく生きるか?』という命題が重要性を増すようになってきている。

それに加え、歯周炎こそが多くの人々が若いうちから自覚なく蓄積する慢性炎症と認識され、歯周炎と重大な全身疾患との関連が次々と明らかになり報告されている。加えて、歯牙歯周組織は生体内でもっとも自然治癒能力が低い組織であるにもかかわらず、豊かな生活に欠かせない『食事』『笑顔』という重要な機能を一手に引き受ける組織なのである。

このような否定し難い事実からもわかるように、今後の社会において予防をベースにした歯科医療の重要性は否応がなしに高まっているのである。

また、これまでの予防をベースにした歯科医療は、『カリエスの予防』『歯周炎の予防、管理』を目的に『リスク検査とメインテナンスの普及』を軸に広まり、そのアウトカムの評価基準はDMFTと残存歯数が重視されてきたが、これからの予防歯科医療はさらに多軸的な価値の創造が必要となるわけである。
これから求められる予防歯科医療はどのようなものであろうか。これには、予防歯科医療がどのようにしたら成功するのか?というところから考えていかなくてはならない。

予防歯科医療の本質は間違いなく『個々の患者に合わせた一連の連続性を持ったオーダーメイドの患者教育』である。
従来の予防歯科医療では『如何にリスク検査と定期来院をさせるか?』ということが教育上の大きな命題で患者教育のトピックは『カリオロジーとカリエス予防指導』『プラークコントロール指導』『定期メインテナンスの重要性教育』が主な三本柱であった。この教育においては来院ごとにチェック及び更新される『健康ノート』が教育媒体であった。

ここで考えたいのは、『健康ノート』が教育効果を発揮するのはどのような場合かということである。
健康ノートを見ようと患者さんが思うときは、患者さんは口腔内の健康を考えているときなわけで、そのとき既に患者さんの『脳のチャンネル』は口腔の健康に対して開いているのである。
そう考えると、『健康ノート』を媒体にした患者教育の成否は、ほとんど来院時に決まっており、患者の口腔の健康に対するアップデートは来院時にのみ行われる訳である。

しかし、どんなに優秀な歯科衛生士や歯科医師が患者教育を行おうとも、患者さんが家に帰って時間が経つと患者教育により得たモチベーションは低下していくのである。その低下度合いが次回来院時までに歯科衛生士の想定より酷いとコンプライアンスの悪い患者、良いとコンプライアンスの良い患者となる訳である。
ここで、コンプライアンスの悪い患者と認識され、小さな行動変容の成功体験が得られないと、患者自身と担当衛生士または歯科医師の間にシナジーが生まれず、患者教育の大きな成功は遠ざかってしまうのである。

患者教育や行動変容の大きな成功は、小さな成功体験の連続により達成されるという事実から考えると、これは非常にもったいないことかもしれない。ここで、クラウドシステムの出番な訳である。クラウドシステムは単なるデジタル上の『健康ノート』でも患者情報の共有の場でもなく、全く新しい患者教育、支援ツールとなれる可能性がある。そのポイントは以下の3つである。

(1)クラウドシステムの端末は患者が無意識状態でも患者の手元にある。

先にも書いたように、家で健康ノートを開くとき、その患者の『脳のチャンネル』は既に口腔の健康に開かれていることになる。ある意味で既に患者教育の第一ステップが成功した患者と言える。患者教育の成否を決める一番大きな問題は患者の『脳のチャンネル』が開いているかということである。言い方を変えると、無意識状態で開いていない『脳のチャンネル』を如何に開くか?ということに成功すると、我々の行う患者教育の成功率はもっと上がるかもしれない。

現代社会では老若男女、片時も離れず手にはスマホを持っている。仕事の日でも休日でもスマホを一瞬も見ない日は誰にも無いのではないか。これを端末とするクラウドシステムは、それだけ多くの患者の無意識状態にアクセスし教育するチャンスをもたらす訳である。片時も離れずスマホを携帯する人は多いが、健康ノートを片時も離さず毎日眺める人はいない事を考えると、クラウドシステムを介して行う患者教育の可能性がとてつもなく大きいことは想像に容易い。

クラウドサービスの端末となるスマホは老若男女、日常のどのような場面でも患者の傍にあり、スマホを1日全く見ない人は稀である。写真の人々が手に持っているものがスマホではなく健康ノートになることは考えにくい。

(2)来院時以外に患者にアクセス、情報提供し教育支援できる。

従来の『健康ノート』を基軸とした患者教育は主に来院時に行われ、どんなに優秀な歯科衛生士が教育をおこなったとしても、その後日常生活を経て次回来院時まで徐々に患者のモチベーションが下がっていく。
前述したように、これは非常に勿体無いことであり、クラウドシステムは使い方によって来院時以外にも個々の患者に教育支援できる訳である。

当院では、患者の資料以外にも担当衛生士が行なったリスク分析、予防教育内容、リスク部位や個々の患者の健康維持にあった内容を意図的に来院から暫く日にちが経ったタイミングで送信し、患者のモチベーションを再度あげたり、予防教育内容のリマインドに活用している。
また、担当医と担当衛生士が基本治療後におこなう患者ごとのケースカンファレンスの内容もクラウドシステムを通じて患者に送信される。これにより、私たちの医院が、患者さんが来院されていない時も真剣に個々の患者さんの健康を考えているということの無言のアピールになり、これだけでも良好なラポール形成とコンプライアンスの醸成効果があり、その後の患者教育を成功に導いてくれる。

さらに、この活用法は思わぬ副次的効果もある。現在私たちの医院では各メインテナンス衛生士が送信内容やコメントを作成している訳だが、クラウドシステムのデータ送信は以前にメインテナンス衛生士として長年勤務していた者が、子育て期間中のパートとして週2回半日の復職時に行なっており、各担当衛生士の要請を受けて体裁を整え内容をダブルチェックし送信している訳である。それゆえ来院から一定時間経った後でのクラウドデータ送信となるわけで、これは非来院時の患者教育としてのメリットと、ワークライフバランスが変化した貴重な人材(歯科衛生士)が貴重な経験と知識を活かして新たな仕事のスタイルを実践できるというメリットもあり、正に一石二鳥。
さらには、経験や知識が豊富な歯科衛生士がこれを担うことで、若手のメインテナンス衛生士が行う患者教育のレベルをチェックしたり必要に応じてアドバイスできるという医院のチーム力向上というメリットもある。

どんなに優秀な歯科衛生士や歯科医師が患者教育やモチベーションを行なっても、時間と共にその効果は薄れていく場合が多い。一方で意識が薄れた患者に限って自主的に健康ノートを紐解く可能性は限りなく低い。クラウドは、このような患者に対しても無意識に再モチベーションやリマインドを行うことができる。

(3)オーダーメイドのコンテンツを個々の患者にタイムリーに送れる。

さらに、当院では『人生100年時代の口腔の健康の守り方、作り方』を医院全体で共有し、患者の年齢の各ステージに合わせた予防教育内容、管理目標を策定している。
これを元に、クラウドシステムのコンテンツプラットフォームを患者の年代ごとに決め、それぞれの患者にタイムリーな予防教育コンテンツが、リスク検査診断に基づくオーダーメイドの予防指導内容とともに届くようになっている。加えて人生100年時代においては、予防歯科医療の価値は口腔内での評価に止まらないことから、それぞれの年代に対して、なるべく全身の健康や健康な人生を想起させるコンテンツを準備して送信している。

この情報化社会では、かつてないほど健康に関する情報が溢れている。大体の内容は常識として多くの人は『知っている』ものである。では、なぜ多くの人々が慢性炎症と生活習慣リスクの蓄積で健康を失っていくのか?それは、『脳のチャンネル』が開いていないところに、ただ大量の情報が浮遊しているだけだからである。
たとえ似たような健康に関する情報でも、『脳のチャンネル』を開いているところに届くかどうかは、実際の情報の重要性よりも重要かもしれない。
そう考えると、クラウドシステムの活用は、患者自身の口腔内の情報とともにタイムリーな健康関連の情報を個々の患者に送ることができるので、それぞれのコンテンツが『自分ごと』化され、『脳のチャンネル』が開いた状態で患者に受け入れられる可能性が上がると思われる。

この仕組みをうまく活用すると『予防歯科医療×クラウドシステム』は、今後の人生100年時代において『如何によく生きるか』にフォーカスした健康実現の鍵となる可能性を秘めている。

妊娠期から永久歯列完成までの予防教育目標

成人期における予防教育目標

2.COVID-19が歯科医療に与えた影響

最近世界的パンデミックを引き起こした新型コロナウイルスは社会的な営みをもかえた。
おそらく、この変化は一時的なものではなく今後も続くものと思われる。いわゆる3密を避けるという社会が今後の姿であろう。

歯科医療ももちろん変化を余儀なくされたと言える。
歯科医療現場は最も感染リスクの高い現場と言われ、世界的には歯科医院は診療を緊急処置以外禁止している。
健康のために通っていたメインテナンスも、コロナ蔓延により『健康のためにメインテナンスを延期する』という今までとは本末転倒な状況となっている。
しかし、メインテナンスを伴わない状態では、口腔の健康維持が不可能なことは既知の事実である。

今後は安全に3密を避けて極力感染リスクを下げて必要な人、必要な時期に的確なメインテナンスと治療の実施が求められるであろうし、セルフケアがしっかり行えることの重要性がより求められるであろう。そういった意味でも効果的な患者教育と非来院時の患者教育は間違いなく重要性が増す。これはクラウドシステムしかできないことである。

また、COVID-19は、それまでの歯科医療の現状を患者に知らしめた。診療において唾液やエアロゾルが診療室に蔓延していること、そんな中診療室は個室でないところが多いこと、さらにはアポイント間の時間を取らずに15~30分間隔で不特定多数の人が同じユニットに入れ替わり唾液を拡散しまくっていたこと。
このような世界的に見れば異常な状態が『危険』であると多くの患者(日本人)が認識したわけである。
仮にコロナが収束したとしても今までの従来の診療スタイルを望む患者はいないだろうし、仮に元の診療スタイルに戻したならば、安全性の観点からリスクを抱えることは患者目線でもわかることだろう。

ここで、考えなくてはならないのは、なぜ今までの日本の歯科医療はそうなってしまったか?
これは正に安い対価で削ること、抜くことで成り立っていた日本の保険医療ビジネスのせいであることは間違いない。この状況は、保険医療制度にメインテナンス的な要素が含まれたとしても変わらない。保険医療制度が担保する報酬では、ユニット間の休止時間を確保できないであろう。

ではCOVID-19時代に求められる歯科医療体系はどのようなものであるか?
それは、『しっかりと管理された環境で、十分な時間と診療間隔を確保し、一度の来院で多くの患者教育又は処置を効果的に深く行い、行なった患者教育を非来院時にも継続的に維持し、薄利多売ではない真に価値のある歯科医療』以外の体系は無いように思われる。
つまり、わかりやすく言えば、今までの回転数重視の診療と真逆のことをして、クラウドを最大限活用する歯科医療に他ならないと言える。

3.クラウドシステムで可能になるafter(with)コロナの歯科医療価値醸成

以上に書いてきたように、クラウドシステムは今後、歯科医療の新たな価値を醸成するのに不可欠なツールとなり、この流れは新型コロナウイルスの影響により加速されていく。
ただ、ここで重要なのは、クラウドシステムを単にコロナ対策と捉えるのではなく、さらなる歯科医療の価値を醸成するものと捉えなければ、今後の人生100年時代において、多くの人々を幸せにし、社会を変化させていくことはできない。
クラウドシステムがツールとしての重要性を増していくことは間違いないが、その価値を深めるのは院内の診療教育システムである。ここでは、私たちの医院でおこなっている診療システムの実際とクラウドシステムの活用を紹介したい。

まず、人生100年時代における当院の取り組みとして、一人ひとりの患者さんが口腔の健康を守り、実現するために各ライフステージにおいて下記に示すような教育目標を掲げている。このバックボーンに沿って、各患者さんに対し教育、予防メインテナンス、治療、リスク管理がオーダーメイドで行われる。

また、当院では、MTMに則って個々の患者さんにオーダーメイドの予防をベースにした歯科医療を提供している。全ての患者さんは、初診時リスク検査(唾液とOHIS)と口腔内試料採取(デンタル写真、口腔内規格写真、歯周精密検査)と全身健康のチェック(医科的問診、バイタル測定、BMI、ストレスチェック(VAS))をお受けいただく。

それに加え当院では独自にジンジパイン活性試験(Pg菌の酵素活性:アドチェック)、PISA計測、とスタディーモデル採得を行なっている。そのため初診の患者さんに一通り提供される口腔内情報は以下のようである。
これはどのライフステージ(成人)に共有のものであが、個々人の患者教育についての担当衛生士からのコメントや患者自身の検査結果が入ることにより、患者個々人に特化したオーダーメイドのものとなる。

それに加え、健康な人生を健康な口腔とともに歩んでいただくために各年代に伝えたい情報を用意してあり患者の年齢に合わせたものが送信される。これは一見月並みの文に見えるが、その直前に患者自身のオーダーメイドの情報があるため、『脳のチャンネル』が開いた状態で提供されることとなり、『自分ごと化』される確率が格段に上がる。
また、ここの内容は、各患者に対して行われるジンジパイン活性検査やPISAの情報とリンクされることで、大きな教育効果があるように思う。

私たちの医院では、フェーズ分類を利用して包括的に患者の口腔の健康を維持するようにしている。初診時の資料採取やリスク診断に続いてフェーズ1として、リスクコントロールと病原因子や炎症の除去のために担当衛生士が基本治療を行う。ここでも患者教育は基本治療の手技そのものよりも重要である。
ここでは口腔内全体のリスクを軽減することを主目的に行われる。口腔内全体のリスクや病原因子コントロールのための目標がクラウド上で初診時より患者と共有されることで、他力本願になることなく、患者自身と担当衛生士の協力により口腔の健康を実現していく第一関門になるわけである。

この段階で、担当衛生士が行なった教育内容やコントロール目標は診療データとともに患者が来院してから一定期間開けたタイミングで個々の患者に送信される。この送信を担当するのは前述のクラウド担当衛生士であり、送信を一括管理することで来院時以外の患者の再モチベーション、担当衛生士が教育内容の再度の刷り込み、院内の各衛生士の指導内容に偏りやバラツキがないかチェックもできる。

このようにして、基本治療が進んでいくわけだが、当院では基本治療終了後に全ての患者を対象に担当衛生士と担当医でケースカンファレンスを行なっている。
そこでは各患者が

  • 基本治療におけるリスクコントロール目標に達しているか?
  • 基本治療後どのようなアプローチが必要か?
  • 全体のリスクが下がった後に注意すべきリスク部位やリスク項目はないか?
  • 歯周炎と全身疾患との関連はどのように変化したか?(PISAの変化)

などをディスカッションしている。これは当院における、歯科医療価値醸成のための大きな柱である。
このために月二回、半日を休診にして取り組んでいる。ここでのディスカッションの内容も、記録され基本治療による口腔内状況の変化を示すグラフ、担当医担当衛生士からのコメントとともにクラウド送信される。これにより初診からの良い変化を患者と共有し成功体験を通じてさらなる行動変容を起こしやすくするとともに、『来院していない時間にも私のことを考えてくれている』ということが個々の患者さんに伝わることで、より良好で生涯のためになるラポールが形成されるという効果は非常に大きい。

基本治療後は、歯周外科の必要な方や補綴修復処置に行く方、メインテナンスに移行する方により送信内容が異なる。歯周外科や補綴修復に進まれる方は、治療内容に関する教育コンテンツやリスク部位のコンテンツが治療の進行とともに送信される。包括的診療においてフェーズ分類による治療計画マネージメントを実践しているので、この段階のクラウド活用はフェーズの変わり目で採取した資料とともに送信される。

このようにして全体の治療計画が終了、晴れてメインテナンスに移行する場合は、メインテナンスに向けた際のモチベーションのツールとしてクラウドが活用される。この段階で送信されるコンテンツは、初診時と治療終了時のリスク検査結果の比較(メインテナンスフェーズに入る前に再リスク検査を行なっている)、初診時と治療終了時の口腔内写真比較、歯周組織検査票比較、PISA比較、リスク部位やメインテナンス期間中の注意点、全身との健康に関連した各年代のコンテンツなどが各患者に合わせて最終来院から次回メインテナンス来院までの間に送信される。

この段階で送られる内容の目的は、次回メインテナンスまでの再モチベーション、個々のリスク部位やリスク項目の注意喚起、当院がそれぞれの患者さんを大切に思っていることを伝える事、患者さんに自身が受けた、もしくは受けている歯科医療の価値を理解してもらう事である。
そのようなねらいで下記のようなコンテンツが最終来院から次回メインテナンスアポイントまでの間に送信される。更にここで再度、口腔の健康と全身の健康や健康な人生とを結びつけるコンテンツも再送信する。ここまでたどり着いた患者は十分に教育されているので、こちらの伝えたい内容が温度差なく伝わる可能性が高いからである。

ここまで、当院におけるクラウドシステムの実際を院内の診療システムとともにご紹介させていただいた。
オーダーメイドの予防をベースにした歯科医療をクラウドサービスというプラットフォームに落とし込む事で、従来は来院時にのみアップデートされていた患者教育を非来院時にも行える事や、患者の『脳のチャンネル』が開いていない無意識状態の患者に対し再度教育できる事(患者教育のリマインド機能として使える事)、非来院時のモチベーション低下に対し再度モチベーションを行えることなどの従来には全く不可能であったことができるようになった。
こうすることで、患者と共に小さな成功体験を積み上げていくことが、大きな行動変容や予防教育の成功につながる。

加えて、今回のCOVID-19により歯科診療においては3密を防ぐという観点から、従来のように短時間多回数来院していくような診療スタイルはさらに意味をなさなくなると予想される。と同時に、全世代の患者一人ひとりが健康について深く考えるようになるであろう。

そのような時代に求められる歯科医療は、どのようなものであるか?単にクラウドやAIなどのデジタル技術によるオンライン診療(来院の代わりに、オンラインでできることをやる)というものではないのではなかろうか?
歯科診療が健康教育や予防教育のベースの上に成り立つものであるならば、やはりFace to Faceで行うべきところは、それに勝るものはないのである。

これらの背景を考慮すると、一度の来院で深く患者を診て、患者に響く教育を行い、診療にあたっては合理的に少ない回数でしっかりとした品質を提供する医療を心がける必要がある。そして、患者が来院していない時でもクラウドシステムのようなデジタル技術を利用し患者の健康生活に寄り添う医療が求められる。

さらに、当院でも行なっているように、診療システム自体を成熟させ、その上でアウトプットを来院時のみならずクラウドでも行うことにより、よりオーダーメイド感の強くかつ患者の生活に寄り添った予防歯科医療を提供できる。
このようなことから、今後クラウドシステムを活用した予防歯科医療は求められるものであり、我々の行う予防歯科医療の価値を従来より飛躍的に、どんな治療技術的転換点より深く歯科医療価値を醸成してくれる可能性がある。